「10日間を地域の力で生き延びる」 防災をスローガンに、自治会加入率をV字回復させた地域防災の功労者が唱える”共助”の重要性

災害時の防災備蓄の必要量として一般的によく言われるのは「最低3日分」。
しかし、防災功労者として2度の内閣総理大臣表彰を受けた地域防災の功労者、岩崎氏は
「3日分では少なく、10日間生き延びるための備蓄を用意する必要がある」と話す。
“防災”をスローガンに掲げ、自治会の加入率もV字回復させた岩崎氏に、共助の重要性について尋ねた。

丸亀市川西地区自主防災会 岩崎正朔会長

10日間を「共助」で乗り切る

―防災備蓄は、これまでどんなものを用意してきたんですか?

まずは命を救う、救助用の道具を2年ほどかけて用意しました。その後は避難所でどういうものがいるのかを勉強して、食料品、そして住である、毛布・マットの類など、生活用品を一通り用意するのに数年かけました。

川西地区のコミュニティセンターの防災備品庫

―何日間持つように蓄えているんですか

10日間は共助の力で頑張っていこうと考えています。10日過ぎたら、公助が出てくるだろうと思っているので、最低10日は地域の力で面倒を見ていこうと。人数は、実際何人避難生活に入るかは分からないので、「えいやー」の世界でもありますが、いろんな先進地の事例に当てはめて計算していくと、うちの自治会の場合は200人から250人くらいだろうということで、200人から250人くらいが、10日間生き延びられるだけの量を用意しています。

―10日間と考えているのはどうしてですか

東北の被災地にボランティアに行ったとき、避難所になっていた学校で話を聞くと、地震発生後、3日目の夕方や4日目の午前中頃に自衛隊がヘリコプターで降り立ってきたと。学校で早くて3日後4日後だとしたら、一般の住宅に支援が来るのはもっと遅いはずで、どんなに早くても1週間かかるだろうと。丸亀市の場合、まずは丸亀城周辺の中心街や海岸線で手一杯になるため、川西地区へ支援が来るのは10日ほどかかるだろうと考えています。だから地域で連携してみんなで頑張ろうという土壌を作っておいて、「こっちのことは心配しなくていいよ」と市に言える状態にしておきたいなと。

―費用はどうやって賄っているのですか?

13年ほど前から、川西地区の自治会員から「まちづくり基金」として1世帯あたり年間1000円をもらっていて、うち500円を防災に当てています。そのほか地元の企業25社以上に賛助会員になっていただき、毎年寄付をいただいています。

自治会加入率がV字回復

―そうすると、たくさんの人に自治会に入ってもらうことが必要ですね。

各家庭を訪問して加入を呼びかける際、ポスターを持っていきます。ポスターには備蓄や大型発電機の画を入れていて、それを見せながら説明するんです。「これだけの日本一の安心安全なまちづくりを整えているから、共助のワク組みに参加しませんか」と声をかけているんです。

―ほかにも、周辺のお店で特典を受けられるパスポートを作るなど、いろいろな工夫が見受けられます

防災の「安心・安全!パスポート」、これを持っていたら、どこかで何かあったときも、見せたら要するに“仲間”だと。大いに助け合いをしていこうという思いで作りました。そこに付加価値をつけていこうということで、周辺のお店にポイント付加やサービスなどをお願いするようになりました。

自治会で発行する「安心・安全!パスポート」

―その結果、加入率はどれくらいまで上がってきたんですか?

世帯数は2700ちょっとあるのですが、一番低かった約41%から、約57%まで上がりました。

―皆さんの意識も変わってきたということですよね。

自治会に入るメリットが大きいということを、皆さんが感じているんでしょうね。
職場で聞いたっていうんですよね。(自治会の)噂を。こういう仕組みが川西にあるというのを職場で聞いて、職場で話が広がっていってると。職場の先輩から聞いたから「入りますよ」という若い子もいて。横に広がっていると知ったときはうれしかったです。

2019年9月撮影

―加入率はもっと伸ばしていきたいとお考えですか?

来年春に60%を超えて、そのあと年5%ずつ上げていって、75%まで持っていくことを目標にしています。

被災地でボランティア

―自主防災会として、被災地へボランティアにも行っていると聞きました。

最初は東日本大震災で石巻と陸前高田へ行きました。また熊本地震の際に熊本へ。最近では西日本豪雨の際に、倉敷市の真備地区にも行きました。被災した家屋で、泥や家具の撤去などを手伝いました。

―ボランティア活動を通じて、改めて防災への意識が高まりましたか?

被災地で現地の方から話を聞くと、“避難”の重要性を改めて感じました。やっぱりいち早く避難するというね、命が一番なので。
西日本豪雨の被災地で、死者が1人も出ていない地域がありましたが、よくよく聞いてみると、しっかりとした自主防災会があって、そこでは率先避難をちゃんとやらせていた。日頃からの訓練で、避難を誘導する担当を決めていて、それが機能したと。自分たちの自治会でも、率先避難のクセをつけるということを呼びかけています。

倉敷市真備地区でのボランティア活動(2018年7月)

事例から学ぶ

―岡山・香川のほかの地域を見ていて、まだまだ足りないなと感じるところはありますか?

香川でも、県が防災のいろんな研修やシンポジウムを開いて啓発していますが、ほとんどの人はわざわざ行っていないですよね。こういう機会を活用して、先進地の事例からもっと学んでほしいと思います。

うちの自主防災会では、事例を見て聞いて手帳にメモをして帰って、それを真似したりプラスアルファを加えたりしています。
例えば真備にボランティアに行ったとき、暑い中鉄製の重いシャベルをもって作業するのは大変でしたが、アルミ製のシャベルはとても軽くて使いやすかったです。少し高いけれど、こういう道具を買っておくことが必要なんだと、その時に感じました。

ほかにも最近お医者さんに聞いた話では、口の中を清潔に保っておくだけで、健康維持が全然違うと。災害時に水不足になって、水を全然飲まなくなると、口の中にばい菌がたくさんたまるんだそうです。その話を聞いてから、口の中用のウエットティッシュと歯ブラシを300人分買ったんですけど、そういうものも一つ一つ勉強しながら準備をしています。こうした取り組みを続けてきたことで、ここまでの状態になれたと思っています。

―改めて、皆さんに伝えたいことはありますか?

最低1週間は自力というか、自助と共助で乗り切らないといけないと思います。

「税金払っているから」とみんな安心して言いますが、税金を払っていたとしても、行政もパニックになっていますから、来たくてもすぐには来れないんですよ。それなのに「予算を充てているから」と公助に頼り切ってしまう人がいる。その気持ちをまず切り捨てないといけません。そして自分たちで1週間、あわよくば10日間生きるための物資を用意しておかないといけません。「近くにスーパーやショッピングモールがあるから」と言っても、いざ災害が起こったら、中はぐちゃぐちゃで、おそらく1週間くらいは中に入れないでしょうから。

岩崎正朔(いわさき・せいさく)

1944年1月生まれ。丸亀市川西地区出身・在住。
2004年から丸亀市川西地区自主防災会会長を務め、2010年度防災功労者内閣総理大臣表彰を受賞。また、かがわ自主ぼう連絡協議会会長としても2018年度に同表彰を受賞。

インタビュー:中村康人 執筆:笠原慎太郎