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予約で完売!香川の里山に実るこだわりの柑橘、専業主婦が農家4代目を継ぐ

三豊市 財田町 矢野農園 矢野志保美さん

軽トラックで急斜面を登れば、豊かな里山の景色、
西には有人の島としては香川県最西端の伊吹島が見えます。
柑橘には絶好の山肌に、矢野志保美さんの農園があります。

豊富な日照量で柑橘類は甘くなり、斜面で水はけがいいと味が濃くなるといいます。

矢野志保美さんは、2ha(東京ドーム1/2)の面積を栽培する農家。
女性一人で果樹園、というだけでも驚かれるのに、この面積です。
こなせるのは、小学校まで片道3.5kmを歩き、高校時代は自転車で片道13kmという、環境に鍛えられた体力あってこそ。

「ダイエットとか流行りましたけど、しっかりごはん食べないと、身体が動きませんよね。」
しっかり食べてしっかり働く、主婦業をしながらの農業です。

日射を良くするため、枝打ちをする志保美さん

師匠は父でした。4代目を継ぐことになったのは、父の病気がきっかけでした。
次女ながら、外交的な性格と幼い頃から農業を手伝っていたことから、自然と志保美さんに白羽の矢が。その時、岡山で専業主婦をしていた志保美さん。家族会議の結果、ご主人は養子に入り、志保美さんは子供二人を連れて香川の実家へお引越し。ご主人は岡山のまま、別居をしての就農でした。

農業を手取り足取り教わった記憶はなく、父の仕事を見て盗み、本で勉強しながら技術を磨きました。自分で調べ、試行錯誤を繰り返す姿勢は父から受け継いだもの。

「うちの土地に何があうか、どんどん植えてみよう。」
父は、新しい種類の苗木を熱心に集めて植えた翌年、新品種を一口も食べることなく、逝ってしまいました。

まず、最初に困ったのが、父以外、品種がわからないこと。実がなる度に、地元みかん部会の大先輩や香川県西讃農業改良普及センターの専門家のところへ持って行き、見てもらいました。思いのほか、実の大きい文旦の種類が多かったのが、驚きでした。木と木が比較的近い距離で植えてあったので、隣どうしの木の影響が少ないよう枝葉を切って工夫しました。
夢中で未知の柑橘の木と向き合って10年、気が付けば、父が思い描いた少量多品目リレー栽培が実現されていました。

矢野農園の柑橘、ラストバッター、メイポメロ。5月にできる文旦の仲間。

柑橘は作るのも食べるのも好きという志保美さん。9月の極早生温州みかんから、5月のメイポメロまで切れ目なく、およそ20種類の柑橘を収穫。その間、食卓にはいつも柑橘があります。いただいた河内晩柑のジュースは、家族用に搾ったもの。酸味、甘み、苦味のバランスが整い、この上ない大人の味わいでした。

志保美さんは味覚の満足度を高めるためにどんな工夫をしているのでしょう?

メイポメロは、文旦とはっさくをかけ合わせた品種。
実がやわらかくて、はっさくらしい酸味がある。

「父の代から化学肥料は使っていなかったのですが、私の代になってエコファーマーの認定を受けました。化学肥料と農薬の使用量を報告して環境に負荷をかけない農家の認定を受けるものですが、香川では減農薬を訴えても売上は上がりません。評価されるのは味のみです。」

志保美さんの一番のテーマは、土を元気にすること。
糖度を増すには、完熟牛糞たい肥や竹からできた竹肥を。
その他、よもぎに黒砂糖を混ぜて発酵させたり、筍を使ってみたり。
土を活性化させるために、よいと聞けば試し、味見をして検証する、の繰り返しです。

柑橘の味は、甘ければいいというわけではなく、酸味やコクや食感、さまざまなポイントに焦点を当てて、挑戦が続きます。
肥料と共にこだわっているのが、草生栽培です。
ナギナタガヤというイネ科の草の種を撒き、草が、土と果樹の根を守る役割を果たします。
矢野農園の2haの農園で刈り取る草の量は、年間20~30tくらいになるでしょうか。草自体も有機物として重要な栄養となるのです。

土を乾燥させない為にも除草剤は使わない。これからの暑い時期も草が樹木を守る。

かつては木が病気になり、収量を下げたこともあったけれど、徐々に、道の駅で評判をとるようになりました。父の時代に得ていたお客さんからの信頼もありました。搬入して1時間で完売の連絡が入ったり、直接、声をかけられたり。食べた人からの「おいしい」の一言が一番の励みだそうです。

平成30年、香川では138人の新規就農者のうち、20人が女性でした。全国的にみても高い割合だそうです。香川の西部では、三豊市、観音寺市の女性農家グループ「みとよ若嫁ファーム」が結成され、志保美さんが会長を務めます。県外に視察にいったり、マルシェで直接お客さんと対話したり。他にも、孤独になりがちな仲間たちの精神的な支えになるという役割があります。

代々の土地を守りながら、地域に根を張り、自分が誇れる柑橘を育てる志保美さん。
その充実感は、地に足をつけて自然と対峙する農家にしか味わえないものです。
家族、地域と、支え合う輪が広がって、今度は、志保美さんの後継者が育つ土壌を、香川で醸成したいものですね。

矢野志保美さん、メイポメロの木の前で。

矢野農園の柑橘は、「道の駅 たからだの里さいた」で販売しています。
6月現在は出荷が終っています。9月下旬の極早生温州みかんまでお待ちください。

道の駅 たからだの里さいた
[住 所] 香川県三豊市財田町財田上180−6
[電 話] 0875-67-3883
[定休日] 月曜日(祝日の場合営業)

(レポート:SANUKI TABLE 国見 香須子)

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