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ブドウの新しい品種を作る「育種家」 新品種作りへの思いと関心を寄せる「種苗法の改正」 岡山

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 「育種家」という職業をご存じでしょうか?  ブドウの新しい品種を作る「育種家」が岡山市にいます。毎年5月下旬から6月上旬、ブドウの花が咲く前は、育種家にとって最も忙しい時季です。新しい品種作りへの思いと現在、議論を呼んでいる種苗法改正について聞きました。

 岡山市北区津高のハウスでブドウ栽培の作業をしているのは、育種家の林慎悟さんです。2ミリほどの大きさに膨らんだ「つぼみ」に手を加えています。

(育種家/林慎悟さん) 「受粉の前に『除雄』といって、花の中におしべとめしべの両方1つ入ってるんですけど、その中のおしべを(花が)咲く前に取り除く作業をしてます」

 ブドウの多くは、自ら花粉を飛ばして受粉します。そのため、新しい品種を作るには、開花する前におしべを取り除き「自家受粉」をしないようにしてから他の品種の花粉を人工受粉します。

 林さんはブドウ栽培の傍ら、約20年前に「育種家」として新しい品種の開発を始めました。そして10年の歳月をかけて、大粒で皮ごと食べられる新品種「マスカットジパング」を開発。2014年に品種登録しました。 「マスカットジパング」は現在、岡山県の約150戸のブドウ農家が栽培しています。

(林慎悟さん) 「(以前なら)大体20年から30年くらい市場流通でみんなに認めてもらうまではかかったので、(現在も)10年は最低かかるなというのが、やってみて聞いてみた話の中で間違いないことだと思います」

「シャインマスカット」など人気の品種があるにも関わらず、林さんが新品種の開発に取り組む理由は、現在の農業に危機感をいだいているからです。

(林慎悟さん) 「生産現場で僕がすごく危惧しているのは、売れるもの一辺倒になりがちなんですね。もし(同じ)品種がいろんなところで作られてしまうと、当然価格も下がってきたり、品質もいいものがあれば悪いものもあると品種の評価を下げてしまうこともあると思うんですね。そういったことが最終的に生産者の経営に跳ね返ってくると思う」


 作物の品質を保つためには「産地ごとの多様性」が必要。育種家としての信念です。  そんな林さんが今、大きな関心を寄せているのが3月に閣議決定された「種苗法の改正」です。現行の種苗法を2つの点で大きく改正する法案です。  一つは「登録品種の育成者が意図しない海外や産地外への流出を防ぐため、違反者に罰金などの刑事罰を科す」こと。もう一つが「登録品種の自家増殖の禁止」です。

 これまで多くのブドウやイチゴの人気品種が日本から海外に流出しました。改正案は、日本の種や苗の海外流出を防ぎ、育成者の権利を守ることが目的です。

(林慎悟さん) 「ルールって何のためにあるかというと、必要なルールを決めておくことによって悪いことを起こさせないようにするためですね。他の業界などのルールも罰則等があるのは同じですし、農業界に(罰則が)なかったことの方が問題ではなかったかと思っています」

 EUでは現在、穀物など主要作物の自家増殖は禁止されていません。そのため、「登録品種」だけとはいえ、一律に自家増殖を禁止する「種苗法改正」にはさまざまな反対意見もあり、現在開会中の国会での審議は見送られました。

(林慎悟さん) 「今環境もどんどん変わって、作物も栽培しにくいといった生産者の声も聞きますし、消費者のニーズも変わってきたりするので、そういったことに応えていくのが育種家だと思うんですね。そういったものを支えていく必要は、今回の権利の(保護)強化をもってやっていく必要があると思っています」

 農家の負担を増やさずに、育種家の権利をどうやって保護するのか?  今、日本の農業は大きな選択を迫られています。

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