「日々の暮らしの中でできることから取り組もう」女性視点の防災ブック“東京くらし防災”の広報担当者にインタビュー

東京都が2018年に発行した“東京くらし防災”は、行政が発行する防災冊子としては珍しく“女性の視点”を打ち出した作りになっている。そこには、防災は日々の暮らしの中に取り入れてこそ効果を発揮するという、行政としての“自助“をサポートしていく狙いがあった。広報担当者に、冊子を通して伝えたいメッセージについて尋ねてきた。

東京都総合防災部 宮澤夏樹 防災管理調整担当課長

くらしの中でできる防災を

―まず「東京くらし防災」とはどういう冊子か、教えてください

災害時への備えは、平常時の暮らしの中に取り込まないと、長続きしませんし、定着もしないと思います。「くらし防災」という名前には、日々の暮らしの中で、できることからやっていこうという意味を込めています。
前半は登場人物が、日常生活のなかでどういう場面に遭遇するかということをまとめています。例えば最初は「出かけるときの防災」ということで、出勤途中ではこういうことに気を付けようであるとか、「寝るときにできる防災」では、寝るときにはこういうことに気をつけようなど、どれもいつでもできるんですね。読んだ日から、読んだ瞬間から必ずできることが詰まっています。後半は避難所での暮らしということで、避難所で気を付けた方がいいことをまとめています。

寝るときにできる防災 「東京くらし防災」より

―発行することになった経緯は?

災害への備えは自助・共助・公助、この3つが重要です。その中でも都民全員が自助を実践することが重要だと考えています。2015年の秋に「東京防災」という冊子を都内の全世帯に配布したのですが、災害全般を解説するようなところで、網羅はされているんですが、中身がやや難しいと。知識として分かったとしても、自分の暮らしと何の関係があるのかが少しイメージしづらいと、そういう意見があったんですね。また、女性の視点から避難所の運営であるとか、日頃の生活の中での防災の備えをする必要が高まっているという認識に立ちまして、2017年度に検討会を立ち上げ、2018年の3月に完成させました。

東京防災(左)と東京くらし防災(右)

―具体的に課題が本に反映されている点はありますか

東日本大震災の様々な教訓や、2016年の熊本地震の教訓などを盛り込む形で編集しています。例えば「液体ミルク」というものが熊本地震の際にフィンランドから提供されて、非常に役立ったというお声がありまして、液体ミルクの特集なども盛り込んでいます。ほかにも避難所の体験ボイスのようなものも、随所に盛り込んでいます。

液体ミルクの特集 「東京くらし防災」より

防災をくらしの中に取り込んでいく

―冊子を一番手に取ってほしいのはどういう人たちですか

基本的には全ての方、特にこれまで防災に関心の薄かった方々に手にとっていただきたいです。防災に関心がある方々は、こういうツールがなかったとしても自分で調べますし、「東京防災」を配布した時点で読んでいるんですね。興味がなかったり、興味はあるけれど、きっかけがなくてどうしようかと考えたりしていた層をたくさん取り込みたいです。東京には数百万世帯が住んでいますから、1戸1戸の世帯に取り込んでいくにはどうしたらいいかを常に考えていまして、その1つが未就学児を対象にした絵本でもあります。

―絵本を作った狙いはどんなところですか

東京都は防災ノートというものを小中高、公立私立国立すべての児童・生徒に配っています。授業でくらし防災に書かれているようなことを学校の先生が解説するような取り組みもあるんですね。しかしそれらは小学校1年生以上で、幼稚園児や保育園児などの未就学児はなかなか防災に接する機会がありません。私どもの調査では、未就学児を抱えるご家庭は日々の暮らしで精いっぱいで、防災のことまで考えている余裕はないというのが一般的な傾向として見受けられますので、よりそこに手厚くサポートできればと思っています。

とうきょうぼうさいえほん

―「くらし防災」を暮らしのなかに入れてもらうということですね

くらしの中でと言っても、皆さん忙しいんですよね。防災のことを考えている余裕はない、考えなければいけないことは分かっているけど、そこまで手が回らないというのが実態だと思うんです。ただ、どこのご家庭もお子さんがいれば、絵本を読んだり与えたりする機会があると思います。そこで防災をテーマにして読み聞かせれば、子どもにもそれが浸透しますし、読んでいる大人もやらなければと思うのではないかと。
若者世代も勉強に忙しかったり、仕事で忙しかったりするので、冊子も読む機会ってなかなかないですよね。電車の中でも新聞や本を読んでいる人は激減していて、みんなスマートフォンなどを見ています。そこでアプリであれば暮らしに取り入れてもらえるのではないかということで、スマートフォンのアプリも開発しました。

「東京都防災アプリ」東京くらし防災モード

―ジャンボ版や外国人向けの冊子も同じ発想でしょうか

通常の冊子は文字が小さくて読みづらいという年配の方からご意見もありましたので、基本的な内容は同じで、文字を大きくしたジャンボ版を作りました。
外国語バージョンは主として定住の外国人をターゲットにしています。東京は定住外国人が多くいますし、その人たちは日本人と同じような生活をしていますので、くらしの中でやってもらおうという発想です。外国語版は英語と中国語と韓国語、中でも中国語は簡体字と繁体字を両方用意しています。

通常版(左)とジャンボ版(右)

自助共助のきっかけづくりに

―行政として、自助共助のところまでサポートしていくのですね

行政の役割は主として公助ですが、自助共助のきっかけづくりというものも、非常に重要です。避難所の運営などを見ていますと、自治体の職員も実は被災者であって、被災者でありながら、職務として運営をやらないといけないという、なかなか苦しい立場にあるんです。また、すべての避難所に十分な職員を派遣できるとは限りません。そういうときは、町内会や自治会という組織のなかで運営を少しお願いするような場面もあると思います。自助の精神から共助の精神につなげていくような取り組みが必要だと考えています。

―最後に東京都民、そして全国の人々に伝えたいメッセージをお願いします

冊子にも書いてあるのですが、今後30年以内に首都直下型地震が起きる可能性は70%と、かなりの高確率で東京に再び地震が来ます。東京で以前起きた大きい地震は1923年の関東大震災、その前が1855年の安政江戸地震で、いつ地震が来てもおかしくありません。災害は止められないという前提で、どれだけ被害を減らせるかということを中心に私どもの計画も作っていますので、来るべき日に備えていただきたいと思います。地震だけでなく、台風も止められなくて、毎年襲ってきますよね。今年も大きい台風が来ていますので、たぶん来年も再来年もその次の年も、ずっと来ると思うんです。アプリであれば全国の方々にも見ていただけますので、「東京くらし防災」がそういう備えへのきっかけになればなと思います。

宮澤夏樹(みやざわ・なつき)

2018年4月から総合防災部防災管理調整担当課長。防災冊子の制作や普及啓発、HPなどでの情報発信を行う。

取材/文:笠原慎太郎